老いること死ぬことを恐れない。
書籍「創造的な高齢者介護」の書影
2022年12月15日発売 お待たせしました!
2022年12月15日発売
お待たせしました!
書名:

創造的な高齢者介護

シュタイナーの人間観に基づく介護の現場から

著者: アンネグレット・キャンプス
翻訳: 神田純子
監訳: 大村祐子
出版社: イザラ書房 価格:2,530円(消費税込み)

今日は死ぬのにもってこいの日だ

生きているすべてのものが、私と呼吸を合わせている。
すべての声が、私の中で合唱している。
すべての美が、わたしの目の中で休もうとしてやってきた。
あらゆる悪い考えは、わたしから立ち去っていった。
今日は死ぬのにもってこいの日だ。
わたしの土地はわたしを静かに取り巻いている。
わたしの畑はもう耕されることはない。
わたしの家は、笑い声に満ちている。
子どもたちは、うちに帰ってきた。
そう、今日は死ぬのにもってこいの日だ。
Byナンシー・ウッド

多くの方がこの詩をお読みになったことがあるかと思います。これは米国のアリゾナ州で暮らしていたネイティヴ・アメリカンの女性詩人、ナンシー・ウッドさんが1974年に出版されたものです。
彼女が生きていた時代、人は部族、一族、家族と共に暮らし、年老いた時には自分ができることは自分でし、できないことは周りの人々の助けを受け、世話をしてもらいながら生きていたと聞きます。それは当時、地球上に生きていた多くの人々の生活の仕方だったことでしょう。

しかし今、私たちと大地や宇宙、他者との接触や関わりはひどく希薄になり、人は孤独の中で生き、孤独の中で老い、孤独の中で死んでいく人が増えてきています。

大地と固い絆を持ちながら太古に生きた先人の多くの魂は、太陽が昇り、風が吹き、火を焚く煙が流れ、赤ん坊が泣き、共に生きてきた人々に囲まれながら、「死ぬのにもってこいの日」に天に昇って行ったことでしょう。
しかし現在の私たちの死に様(よう)はどうでしょうか。それまで暮らしていた家で家族や親族、友人たちに見送られて旅立つ人もいます。ある人は病院で、ある人は高齢者ホームで、また家で、路上で、誰にも看取られず死んでいく人もいます。

この違いは、人間が進化した故に起きつつあることのひとつの例です。一人で闘うことによって獣に喰われて死んでしまった人、大勢の仲間の知恵を集めれば助かったかもしれない大嵐の中で一人で死んでいった人、また、多くの仲間と共に戦えば肥沃な土地を白人に奪われずにすんだ人もどれほどいたことでしょう。
しかし、彼らは狩をするのも仲間と共に、農作業も仲間と助け合いながら、家を建てるのも共同で作業し、祝い事も、喜びも、辛さも悲しみも全てを仲間で共有しながら暮らしていました。

今、私たちは一人で暮らせる安全な家を持っています。冷蔵庫には1週間かけても一人で食べきれない程の食料が入っています。また、一人で音楽を聴く楽しさも、一人で思索する醍醐味も味わうことができます。

一族の人々と共に歌い踊ることが楽しみ、共に魚釣りに出かけることが悦び、孤独は辛い、恐ろしい・・という古代人の意識の在り方と暮らしぶりと、他者と一緒にいるのは苦痛、ましてや大勢で騒ぐのは大の苦手、友人と会うのもたまにが良い・・という現代に生きる私たちの在り方、生き方との間にある大きな違い!!!
永いながい年月を経て、このような違いが生まれたのは、人間だけが持つ〈自我〉が進化したためなのです。(本書41ページに詳細が書かれています)

古代に生きた人々と、現代に生きる私たちとの間に存在するさまざまな意識の違いは、古代人の内では希薄であった〈自我〉が進化してきたためなのです。彼らの意識のあり方、生き方の違い、死に対する思い等々、多くの違いは、今私たち自身の内に存在〈自我〉とその〈自我〉の働きによって進化した文化文明によって生まれました。
古代人が持っていた〈自我〉と、現代に生きる私たちが持つ〈自我〉のあり方と働き方が違うのであれば、真の私と、正直になれない私自身の間に生まれる葛藤(そもそも古代人の内にはそのような葛藤は生まれなかったでしょう)、私が他者に感じる感情、世界に対する考えなどなど・・ 何もかもが大きく変わったのであれば、私たちにとって大きな課題である〈死〉について古代人の考えと、私たちのそれも変わってきた筈です。

自然環境や生活様式が大きく変わった現代に生きる私たちが、天空に輝く太陽の光に包まれ、草原をわたる優しい風に頬をなでられ、鳥の囀りに耳を傾け、薔薇の甘い香りにうっとりし、川のせせらぎを耳にしながら天に昇っていった彼らに比し、 現代に生きる私たちは自身の肉体の衰えを覚えつつ、また自身の心が何を感じているかを認識し、自身の身に何が起きつつあるかを自覚しながら、〈私は今のプロセスを歩んでいる〉という意識を持ちながら亡くなる人が多くなっていく時代に生きているのです。

私は、地上に生きる最後の一瞬に自分の肉体、心、精神がどのようなプロセスを経て死に至ろうとしているかを知りたいと思います。私にとって、それが「可能である日」が「死ぬにもってこいの日」であるからです。その〈もってこいの日〉を逃したくはありません。

本書の3人の著者は、ご自身が「人間の肉体、心、精神」について深く学び、「それらがいつ、どのように衰えていくのか」を一瞬一瞬向き合い、それを綴ってくれています。 つまり、ルドルフ・シュタイナーに学んだ介護に携わる方々は、日に日に衰えていく私たちに「死ぬのにもってこいの日」を知らせてくれ、それまでの一瞬一瞬を共有し、私たちが明確な〈自我〉意識を持ちながら彼岸に渡ることを見届けてくれるのです。本書はそれをシュタイナーの思想を基に、その実践を丁寧に書き下ろしてくださっている稀有な書物なのです。

大村祐子

著者プロフィール

アンネグレット・キャンプス(著)

1951年生まれ。高齢者介護の常設養成機関にて看護士として勤務。高齢者介護養成所カリキュラム委員会の協働者も務める。『眠り -他の世界への入り口- テキストと詩』(ウーラッハハウス2001年)の著者であり継続養成クラス“介護における導き”の講師。

ブリギッテ・ハーゲンホフ(著)

1961 年ヴィッテン / ルール地方生まれ。ニコデムス高齢者介護養成所で 1987 年に 資格取得。ヴィッテン - ヘルデッケ大学にて介護学の課程修了。長年、外来と入院施 設で高齢者介護の経験を積む。1999 年からトビリシ(ジョージア)にて介護の助言 者を務める。

アダ・ファン・デア・シュタール(著)

1949 年生まれ。スイスとドイツで看護師経験を積む。医学教育者免許、健康コンサ ルタント、キネスティック修士及びボバート法トレーナー。1982 年以来、高齢者 介護の養成所にて講師を務める。『Schöpferisch pflegen』(ウーラッハハウス 1999 年)著者。アンネグレット・キャンプスと共著で『Menschenkundliche Aspekte zur Qualität in der Krankenpflege』(ウーラッハハウス 1993年)がある。

神田純子(翻訳)

京都出身。東京学芸大学大学院修士課程(教育学専攻)修了後、渡独。1988年から1900年にかけて、シュトゥットガルトのヴァルドルフ教員養成ゼミナールで学ぶ。3人の子どもはシュタイナー学園(神奈川県相模原市)を卒業。現在は同学園でオイリュトミー授業の伴奏やライアー演奏の指導を担当。子どもの成長段階や季節の巡り、人生の大切な節目に寄り添う音楽に携わる。アウディオペーデ ( 療法的音楽 教育者 ) 養成コース修了、同会員。ライアー響会会員。『聴く道の発見』(R. ブラス著、アウディオペーデ出版、2016 年 ) 共訳。

大村祐子(監訳)

1945年生まれ。カリフォルニア州サクラメントのルドルフ・シュタイナー・カレッジで学んだ後、シュタイナー学校、シュタイナー・カレッジで教える。1998年帰国し、北海道でシュタイナーの思想を実践する日本で初めての人智学共同体「ひびきの村」を始める。現在、千葉県 季美の森で執筆、講座、講演等の活動を続ける。『私の話を聞いてくれますか』(本の木)など著書多数。

志水祥介

脳神経内科専門医/指導医、内科認定医、産業医、アントロポゾフィー医学国際認定医、日本モルフォセラピー協会認定セラピスト。神奈川県出身、聖マリアンナ医科大学卒業。 本多虔夫医師に師事し、横浜市立市民病院/脳卒中・神経脊椎センターにて研修後、同院神経内科医師として専門診療に従事。 社団法人地域医療振興協会にて離島・僻地にて地域医療を学んだのち、本多医師とともに精神科疾患の身体治療を実践し、 現在は東京都駒木野病院(精神科単科病院)にて身体・高齢期・認知 症診療、産業医を中心に活動している。

書籍の目次

  • 老いること、死ぬことを怖れない
  • 編者による序
  • 人智学を基にした介護モデルの背景
  • 人智学を基にした介護モデル
  • 学問領域からみた介護モデル
  • 介護モデル転用における実践の重要性
  • 第一章 人智学の人間像
  • 1. 人間の四つの構成体
    物質としての肉体
    生命体(エーテル体)
    感情体(アストラル体)
    自我
  • 2. 眠りの本質
  • 3. 三分節構造の基本概念
    精神、心、体
  • 4. 有機体としての人間の機能的三分節構造
    神経‐感覚系
    代謝‐四肢系
    循環‐リズム系
    思考、感情、行動
  • 5. 十二感覚論
    肉体的感覚(触覚、生命感覚、運動感覚、平衡感覚)
    社会的感覚(嗅覚、味覚、視覚、熱感覚)
    精神的感覚(聴覚、言語感覚、思考感覚、自我感覚)
  • 第二章 介護に関わる人智学の構想
  • 1. 人間と環境
    物質としての肉体とその環境
    生命体とその環境
    感情体とその環境
    自我とその環境
  • 2. 人生の歩みの記録
  • 3. 第一の21年間(誕生〜21歳 身体の発達)
    第一7年期 誕生〜7歳まで
    第二7年期 7歳~14歳まで
    第三7年期 14歳〜21歳まで
  • 4. 第二の21年間(21歳〜42歳 心の発達)
    第四7年期 21〜28歳まで
     感情(感覚魂)の発展
    第五7年期 28〜35歳まで
     理解力(悟性魂)の発展
    第六7年期 35〜42歳まで
     意識(意識魂)の発展
  • 5. 第三の21年間(42歳〜63歳 精神の発達)
  • 6. 高齢期
    高齢期の肉体
    高齢期の生命力
    高齢者の心
    高齢者が持つ傾向
    老化プロセスにおける特別な現れ方
    構成体の多様な状況
    高齢者の存在が意味すること
  • 7. 健康
    身体の健康
    心の健康
    精神の健康
  • 8. 病
    身体の病
    心の病
    精神の病
  • 9. 病と運命
  • 10. 繰り返される地上の生
    地上での人生
    死後の肉体
    死後の生命体
    死後の感情体
    死後の自我と新たな受肉への衝動
    新たな受肉への準備
    再び、地球への道
  • 11. 介護の理解
  • 第三章 人智学を基にした介護モデルを介護計画に応用するための助言
  • 介護モデルを実践に応用するために
  • 1. 意思の疎通
  • 2. 動き
  • 3. 生命機能の保持
  • 4. 自分自身のケア
  • 5. 飲食
  • 6. 排出
  • 7. 衣服の着脱
  • 8. 休息、くつろぎ、睡眠
  • 9. 作業への取り組み
  • 10. 性の意識と自己認知
  • 11. 安全で支援的な環境への配慮
  • 12. 社会的関係の形づくり、それを持ち続けること
  • 13. 人間存在の本質に関わる重要な体験
  • あとがき
    参考文献
    プロフィール

ハウス・モーゲンシュターンのご紹介

ハウス・モーゲンシュターン(Haus Morgenstern)は、高齢になってもキリスト教の共同体と人智学が人生にとって重要であると考える人々のために1976年に設立されました。現在では、要介護者を含む様々な宗派の老人が暮らしています。
ハウス・モーゲンシュターンの外観
ハウス・モーゲンシュターンは4階建91部屋あるアパートメントで、一部屋は20〜25平方メートルの広さです。従業員は高齢者看護師、保健看護看護師、看護助手、建築技術者、家庭管理、キッチン、清掃員など100名以上が働いています。 
ハウス・モーゲンシュターンの個室
使い慣れた家具、写真、身の回り品を自分のアパートに持ってくることができます。使い慣れた家具で生活することにより短時間で「認識の4つの壁」の感覚を作り出します。各アパートメントにはバルコニーまたはテラス、洗面台付きのシャワールームと専用トイレがあります。
ハウス・モーゲンシュターンの屋上テラス
シュトゥットガルトと庭園の壮大な景色を望むことができる屋上テラス。
ハウス・モーゲンシュターンのシークレットロード
どれだけ歩いても、元の場所に戻ってくるように設計された施設内にあるシークレットロード。一人で散歩に出ても必ず戻ってくるので、スタッフは安心していられる。
果物の香りを楽しむ
ハウス・モーゲンシュターンで開催されるイベントの様子
ハウス・モーゲンシュターンでは外の世界と繋がりをつくるために定期的にイベントが開催されます。音読会や演奏会、絵描き…オイリュトミーでは、人の音楽的、創造的な面を刺激します。
写真の著作権はHaus Morgenstern e. V.にあります。